読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ひとりごち

数学、人類学、音楽学などについて

3次元接吻数問題の中心球の大きさが変わったら?

接吻数問題とは

接吻数問題とは「n次元の単位球のまわりに単位球を重ならずに触れ合うように並べたとき、最大いくつ並べられるか」という問題です。このとき、配置可能なまわりの単位球の個数のことを接吻数といいます。これだけ聞いてピンとくる人も多いと思いますが、あの歴史的難問「ケプラー予想」の副産物的な問題です。

n=3のとき、つまり3次元接吻数問題は1694年のニュートンとグレゴリーの議論が発端となり、完全な証明が与えられたのが1953年(シュッテとヴェルデンの論文による)。解決まで実に250年以上を要した非常に難しい問題です。

 

ちなみに他のいくつかの次元でも接吻数が判明しているものがあります。
各次元に対する接吻数は以下の通り

・1次元 ー 2個
・2次元 ー 6個
・3次元 ー 12個
・4次元 ー 24個
・8次元 ー 240個
・24次元 ー 196560個

2016年時点で接吻数が求められているのは上記のたった6種類です。

上界と下界(これ以上でもこれ以下でもない数値)はある程度まで判明しているものの、8次元と24次元のそれぞれ特殊な構造を持った次元を除いて、5次元以上の次元では未だに正確な接吻数は求められていません。

 

さてここで3次元接吻数のニュートンとグレゴリーの議論の話に戻りましょう。

3次元接吻数問題が提起された当時、ニュートンは「3次元接吻数は12だ」と予想したのに対し、グレゴリーは「13個以上の単位球を周り配置することは可能なのではないか」と予想しました。

なぜこの食い違いが起きたのでしょうか?

 

12個の単位球を周りに配置するときに、正二十面体の頂点(これがちょうど12個になる)のような配置の仕方があります。このとき、ぴったりとお互いの単位球が接して固定されるわけでなく、単位球それぞれに若干の隙間が生じます。

試しにGrapherで正二十面体の頂点の配置を表現してみるとこんな感じ。(※画面の収まりの関係で球の半径を3/4にして計算してます)

f:id:yoheijimbo:20170410013615p:plain

つまり正二十面体の頂点の要領で単位球を配置した場合、それぞれに若干の隙間が生じたために、「もう1個ぐらい詰めれば入るのでは?」と思わせたのがこの議論の発端だったのです。

 

しかし実際は、ニュートンに軍配が上がりました。

13個目の単位球は、他の12個の単位球をどうずらしても押し込むことはできません。言い方を少し変えれば、「13個の単位球が接するような中心球は、半径が1では小さすぎた」ということになります。

ここでひとつの疑問が生じます。

中心球の半径がいくつなら周りに13個の球を配置できるか?

 

つまり中心球を少し大きくして、13個目の単位球が入るスペースを作ってあげようということです。もちろん中心球が十分に大きくなってしまえば13個どころかいくらでも単位球を接することができるので、13個の単位球を配置できる最小の中心球の大きさを考えようという問題です。

逆に、12個の単位球の「若干の隙間」を埋めるためには、中心球を少し縮めれば良さそうです。12個接するには中心球をこれ以上縮められないというギリギリの最小値はいくつになるのでしょうか?

同様に中心球の大きさをいろいろ変えることによって、接吻数が変わってくるはずです。ということで、この記事では以下のような問題を考えていきます。

 

「3次元球Snの周りにn個の単位球を並べたときのSnの半径s(n)の最小値はいくつになるか?(n≥3とする)」

 

※ちなみにこの記事ではあくまで直感的に最小になりそうなs(n)の配置を作って、その長さを求めていくことを目的にしています。求めたs(n)の証明は与えてません。証明は難しい作業になると思うので、思いつき次第別の記事で扱っていこうと思います。

それでは早速S3の半径s(3)から順番に求めていきましょう。

  

 s(3)

3つの単位球を周りに並べる場合、S3の同一平面上に単位球を配置する方法が都合が良さそうですね。単位球の中心を結ぶと正三角形になり、その正三角形の中心がS3の中心となります。S3の中心から正三角形の頂点の長さをs(3)+1とし、S3の中心から正三角形の1辺に下ろした水線の長さは√3/3なので、三平方の定理を使った簡単な計算ですね。

f:id:yoheijimbo:20170411200934j:plain

となるはず。

Grapherで確認してみましょう。

f:id:yoheijimbo:20170410100825p:plain

ちょっとポリゴンが荒すぎるのでさらに拡大してみます。

f:id:yoheijimbo:20170410102117p:plain

良さそうですね。3つの単位球が互いに接し合い、中心球S3を最小にするにはこの配置しか無さそうです。

 

s(4)

S4の周りに、ちょうど正四面体の頂点になるように4つの単位球を配置します。単位球の各中心を結んだ正四面体を考え、方程式を作っていきます。これも初歩的な空間幾何の問題で、計算もさほど難しくはありません。

f:id:yoheijimbo:20170411200026j:plain

S4の中心をO4、単位円の各中心をそれぞれE1、E2、E3、E4とし、△E2E3E4とE1から下ろした垂線の交点をMとします。線分E1O4上でS4と単位円が接するので、O4E1の長さはそれぞれの半径を足したs(4)+1となります。また、底面の三角形から長さを求めていくとE1Mが2√6/3になることがわかります。

続いて、正四面体E1E2E3E4三角錐O4-E2E3E4の体積比が4:1(三角錐は正四面体を4分割して得られるため)であることを利用し、E1M:O4M=4:1。よって、E1M:O4E1=4:3。

あとは、4:3=2√6/3:s(4)+1という方程式を解くだけです。

f:id:yoheijimbo:20170411201156j:plain

というのが求まると思います。

Grapherで確認します。

f:id:yoheijimbo:20170410210334p:plain

 拡大してみましょう。

f:id:yoheijimbo:20170410211716p:plain

ちゃんと互いに接し合っているみたいですね。

 

s(5)

S3の配置のように水平方向に3個の単位球を並べ、上下から2個の単位球で挟み込む配置が良さそうです。上下の単位球が中心球S5に接するまで押しつぶしていきます。当然、s(3)の配置を保っていた周りの3つの単位球は水平方向に広がっていきます。

f:id:yoheijimbo:20170411205209j:plain

S5の中心をO5、単位球の各中心をE1〜5とします。線分E1E2上で2つの単位球が接しているので長さは2。線分O5E1および線分O5E2上でS5と単位球が接しているのでどちらも長さはs(5)+1となります。△S5E1E2は直角二等辺三角形になるので{s(5)+1}2+{s(5)+1}2=22を解きます。

f:id:yoheijimbo:20170411211534j:plain

となります。 

f:id:yoheijimbo:20170411173111p:plain

拡大してみましょう。

f:id:yoheijimbo:20170411173201p:plain

水平方向に配置した3個の球の隙間が若干大きいような気がしますが、中心球S5とそれぞれの単位球は接し合っています。

 

s(6)

S6の場合は周りの6個の単位球を正八面体の頂点のように配置すると良さそうです。S6の中心および隣り合う2つの単位球の中心を結ぶと直角二等辺三角形になり、斜辺は2となるので短辺は√2となります。単位球の半径1を引いてあげればいいので

f:id:yoheijimbo:20170411211724j:plain

となります。なんと、この値はs(5)の値と一緒になってしまうのです!

ということはs(5)をもっと小さくできるのでは?と思い、改めてs(5)の配置を考え直しましたが、今の所√2-1より小さくなりそうな配置を見つけられていません。(発見した方がいたら是非教えてください…!)

ということで、ひとまずこの記事ではs(5)=s(6)=√2-1として次に進みます。

 

s(7)

s(7)は非常に厄介です。

 まず最初に僕が思いついた配置は、下図のような形です。

f:id:yoheijimbo:20170412142807p:plain

わかりにくいですが、単位球を1-2-2-2の4つのグループにわけ、それを輪っかのように繋げた中にS7を埋め込みます。図では一番上の単位球が1個で、右・下・左の単位球が2個ずつあり、ぐるりと一周しているようになっています。中にチラっとS7が見えると思います。これを各球の中心だけ残し、真正面から見た2次元の図を描いてみます。

S7の中心をO7、単位球の中心を上ー右ー下ー左の順にE1ーE2,E3ーE4,E5ーE6,E7とし、線分E2E3、線分E4E5、線分E6E7の中点をそれぞれM1,M2,M3とします。また、これから計算が複雑になるので予めs(7)=xと置いておきます。

f:id:yoheijimbo:20170412154809j:plain

3次元の図から、△E1E2E3は一辺が2の正三角形なのでE1M1=√3、正方形よりM1M2=2、半径同士の足し算なのでO7E1=x+1。さらに△O7E2M1は直角三角形で、O7E2=x+1、E2M1よりO7M1=√(x2+2x)となります。

さてここからが本番です。まずはスチュワートの定理を使って方程式を作っていきます。

【スチュワートの定理】

△ABCの辺BC上に点Pをとるとき

AB2・CP+AC2・BP=BC(BP・CP+AP2)

つまり△M1E1M2と辺E1M2上の点O7に対して、スチュワートの定理に当てはめると 

f:id:yoheijimbo:20170412161922j:plain

となります。x+1と√(x2+2x)をそれぞれ文字に置き換えて計算しても良さそうですね。とりあえずこのまま計算していくと最終的に

f:id:yoheijimbo:20170412214658j:plain

というふうにまとめられます。根号が邪魔なので両辺を2乗し、同類項をまとめると 

f:id:yoheijimbo:20170412224415j:plain

が得られます。xの次数が一瞬だけ6次になり気が遠くなりますが、うまく相殺するのでなんとか4次関数に収まります。あとはこの4次関数の正の実数解を求めていくのみ。

(x+1)2でまとめてみましょう。

f:id:yoheijimbo:20170412232252j:plain

これを(x+1)2についての2次関数として考え、解の公式を使っていきます

f:id:yoheijimbo:20170412233349j:plain

求める値は正の実数なので

f:id:yoheijimbo:20170412233747j:plain

ということで、最後にxをs(7)に戻すと

f:id:yoheijimbo:20170412233811j:plain

なんとかなりましたね。

ちなみにこれ以外に1-2-1-1-2のグループ分けというのも試してみましたが、6次式になった上に最小値ではありませんでした。

 

s(8)

8個の単位球の配置は立方体の頂点のように配置したくなりますが、正反四角柱の頂点のように配置する方が良さそうです。

上から見るとこんな感じ

f:id:yoheijimbo:20170416100719p:plain

計算は省略しますが、適当に方程式を作ってやると

f:id:yoheijimbo:20170415023854j:plain

というのが求まります。

 

s(9)

単位球3個ずつで正三角形を3つ作り、上から3段に配置していきます。真ん中の段は中心球を入れるために少し広げ、上下の段に対して60°ひねるのがポイントです。

やや上方から眺めるとこんな風になります

f:id:yoheijimbo:20170416103115p:plain

こちらも計算は省略しますが

f:id:yoheijimbo:20170413014952j:plain

となるはず。

とりあえず今回はここまで。

 

まとめ

再度s(3)〜s(9)の値を見比べてみましょう。ついでにそれぞれの概数も加えると以下の通りです。

f:id:yoheijimbo:20170415023006j:plain

こうしてみるとs(5)がかなり気になります。s(7)あたりもひょっとしたらもっと縮められるかもしれません。

いずれにせよ

・各s(n)に対する証明
・s(10)以降の値
・一般化

などなど、問題は山積みです。一般化は難しいと思いますが、s(10)以降も行けるとこまで調べていきたいですね。その他何か進展があれば記事にしていこうと思います。

ということで今日はこの辺で。それでは!